ドイツにおけるVHS
VHSとは、Volkshochschule/フォルクス・ホッホシューレの略で、ドイツでは、ファウ・ハー・エスと発音される。そのほとんどが市町村などの地方自治体がなんらかの形で関与または補助している、成人を対象とする非営利の生涯教育機関である。ドイツ語で「Hochschule」の意味だけを見ると、いわゆる高等教育機関のことで、日本では大学や大学院をさす。つまり「Volkshochschule」は、「Volks=市民」のための、更なる教育を目指す機関としての理念を表している。ドイツのVHSは、都市部はもちろんのことドイツ全国の小さな町にも組織されており、ドイツ市民生活に深く根ざした、なくてはならない教育機関としての地位を得ている。
ドイツにおける成人教育の基盤は19世紀に遡る。1879年のフンボルト・アカデミーの設立をきっかけに中産階級に一般学問を浸透させることが重要視されるようになり、Volkshochshculeのさきがけとなった。第二次世界大戦後の1953年にはドイツVHS連盟が設立され、1964年、立法による教育改革として成人教育機関への支援条件が定められた。
VHSは、基本的には成人(ドイツでは18歳)を対象とし、学校教育修了者に生涯に亘る教育を提供する場の「核」となっている。一般のプログラムは、あまり知られていない言語を含む世界各国の語学講座のほか、料理、スポーツ、コンピューター、政治、経済、哲学や心理学、健康など多岐にわたっており、また一日だけの講習会、講演なども幅広く行われている。現在では、成人ばかりでなく、青少年向け、幼児(とその母親)向け、高齢者用にも多種多様なコースが開設されている。 受講者層はさまざまで、昼間のクラスでは定年退職者や主婦が多く、夜のクラスでは、仕事を終えて駆けつける男女サラリーマンが多い。このごろでは、18歳未満でも受講できる一般クラスもあり、幅広い年代の受講者、中学生からお年寄りまでがひとつのクラスで学んでいる場合も少なくない。
あらゆるプログラムの中から日本語コースを選んで学習意欲いっぱいでやってくる、さまざまな年代の受講生の姿を見ると心が温まる。私たちVHSで教えている講師は、大学、高校のような教育機関での日本語講座と違い、さまざまな年齢、バックグラウンドを持つ多種多様な受講者に、楽しい雰囲気の中で日本語を教えたり日本文化を紹介するのが仕事である。また彼らが、学ぶことに生きがいを見い出し、その生活にうるおいをもたらす手助けをするのが任務であることは、言うまでもない。
(紀要2020年16号より要約)